Report-0026 of kawani@koganei

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画材研究助成報告書

(これは1994年に「日本児童教育振興財団」に提出したリポートです。)



 1987年から1994年までの7年間「日本児童教育振興財団」の助成を得て「川仁俊恵 幼児児童絵画教室(西田幼稚園内)」の子どもたちがドイツのストックマー社*のクレヨンや水彩絵の具を使って絵を描いたり工作をしたりしてきました。
 また同財団から当時東京で手に入れることの出来る「世界各国の画材43種類」を提供していただき1994年5月から3ヶ月間にこれらを使ってこどもたちが制作をしました。
 1994年度で助成が終わるに当たり、子どもの絵や工作を通して画材が子どもの感性にどんな風に働きかけたかを報告いたします。

はじめに〉

 ストックマーの画材との出会いは私とこどもたちとの関係にあらたな転機をもたらしました。ふりかえってみるとずいぶん長い年月こどもの絵とかかわってきました。
 その間こだわっていたことの一つがこどもたちに適切な画材を与えることでした。与えると言う言葉も納得行くものではありませんが、ここでは私の考え方を述べていくよりも、ストックマーの画材を使っていくなかで具体的に起こったことや変化したことについて述べ、画材の報告をいたします。                           

 はじめて小学館教育事業室で田中真理子さんからこの画材を受け取って見たとき体の器官にしみてくるようなクレヨンの色の配列を忘れることができません。
 シュタイナーの学校で使っているストックマーのクレヨンについては、子安美智子さんの「ミュンヘンの小学生」を読んで知っていましたが、手に取ってみるのは初めてでした。
 当時私は小学館から歩いて10分程の所に住んでおりました。駆けるようにして家に帰りさっそく使ってみてこのクレヨンと絵の具のとりこになりました。
 その頃そろそろ打ち切りにしたいと思っていた絵画教室でしたが、こどもたちとこの画材を使ってみたいと強く思いました。


 現在、教室に新しいこどもたちが入ってくると新しいストックマーのクレヨン1揃いを渡します。
 この配列のままで見て欲しいからです。この配列をはじめて見ることに深い意味を感じているからです。
 1987年度の教室から今までこのストックマーの画材を使ってきましたが、シュタイナーの方法にしたがっているというのではなく、秀れた画材として自由に使って来ました。
 こどもたちが描く行為のなかに沈潜していくのを見るたびにこの画材との出会いをつくってくださり、これを使い続けて行くことを支援してくださった「財団」に感謝しています。
 これから例を挙げてこの画材によってこどもたちに起こったこと、子ども達が変わっていったことの経過を報告いたします。

〈画材が引き出すイメージ〉

 1年生の2学期の終わりに埼玉県へ引っ越して行った藍ちゃんは今2年生です。
 教室に来たての頃は感情表現が屈折していてめったに笑わず、意識的に口を閉ざしているようなところがあり、なかなか感情をストレートに現すことはありませんでした。
 描いているものもはやりのキャラクターや花の形などちいさく窮屈なものでした。
 絵は大好きで没頭しますが絵が好きだという子供によくある、形や説明にこだわるなどの小さな部分で描くことを楽しんでいました。
 しかしその小さな部分の慈しむような色彩はとてもきれいで、なかなか見せない藍ちゃんの豊かな感性をにじませていました。
 「きれいな色だね。わたしもこの洋服着てみたいな」といっても藍ちゃんはだまっていますが、藍ちゃんの小さな躰にうれしさがあふれています。
 「せんせい、この色どうやってつくったか、おしえてあげようか」そういって小さく切った画用紙にパレットの上で丹念に混ぜ合せた色を出してみせてくれます。
 絵を描き上げるたびにどの色を作って欲しいかと私に聞きます。
 藍ちゃんが何週も何週も色作りを続けていると教室の女の子のあいだで色作りがはやりました。
 そうしているうちに藍ちゃんはとてもおしゃべりになり、どの色とどの色を混ぜ合わせたらできた、などと饒舌に話すようになりました。
 描く絵も伸びやかに自由になっていきました。年長組になった夏休みに大分のおばあちゃんのところに行きました。
 帰ってからのことです、画用紙にオレンジ色を塗りたくりながら「おおいたのゆうひ」と叫んでいます。
 こどもが絵を描くときいつも自分の中にすでにあるイメージを表現していくというわけではありません。
 思うままに発した単語が言葉になり、その言葉から思考が生まれていくように、現れたストロークやマッスからイメージが組み立てられていくことがしばしばあります。
 そしてそのイメージにむかって気持ちを集中していきます。
 藍ちゃんはそれから度々オレンジ色の混色で「おおいたのゆうひ」を描きました。ストックマーの混色は「おおいたのゆうひ」のイメージを裏切らないから藍ちゃんのイメージはどんどん成長します。
 「きれいだね!」と私はうなってしまいます。それからきれいな絵をどんどん描き続けました。引っ越して行くときとても悲しそうでした。
「おひっこししたくない」という藍ちゃんに「せんせいに“しんごう”おくってね、おてがみかかなくてもいつでもどこからでも“しんごう”おくればとどくから、せんせいも“しんごう”おくるから」と約束しました。
 私は藍ちゃんの絵をよく思い出しています。そこで終わりにしなければならなかった教室だから、なおさら藍ちゃんの体のなかには「大分の夕日」とストックマーの絵具の色が深くしっかりとしまわれていると思います。

〈欲望を満たす画材〉

 勇くんは細くて華奢な体つきですが敏捷によく動き回り、なかなか落ち着いていません。喋るよりも先に手が出ます。協調することが出来ないので友達もできません。
 弟に手がかかるからと3才児で入園しました。一年間大変苦労した担任の先生の勧めで絵の教室に入りました。グループで絵具を使ったりするときには「ゆうくんとはいや」とたいていいわれてしまいます。したがって幼稚園でも家庭でも「‥・してはだめ」という禁止ばかりが多くなってしまっていました。
 「ゆうきくんこの広いところで、絵具ぜ-んぶ、一人で使って描いていいよ。」というと、椅子の上に立ち上がってビンの絵の具を降らせました。

 「いけないんだよ、ゆうきくん。い-けないんだ♪いけないんだ♪」とこどもたちは合唱します。でも私は「勇くん、絵の具の雨は画用紙の上に降らせてください。画用紙いっぱいつなぎますよ。」と励ましました。
 「きれいな水たまりができたね。」というと疑わしそうな目でわたしを見ています。
 「長靴はいてこの中に入ろうかな」と私。われ関せずのこどももいれば、勇くんの周りに寄って来て一緒になって始める付和雷同型のこどももいます。
 絵が終わればビンの絵の具を洗い場に流して色遊びをします。お母さんが見ていれば悲鳴をあげそうな光景が三週間ほど続きました(教室は週一回です)。
 その間毎週こどももたちが教室のどこかで「かわった、かわった」と叫ぶのを聞きました。画用紙の上や流しの中で絵の具が混ざり合って変化していくのを見て叫んでいるのです。この声を聞いてわたしは安心して色遊びを見ています。こどもたちは色が変わっていくありさまを自分の体の内でとらえているのです。
 お迎えにみえてこの様子を見て「先生うちの子落ち着きがないから落ち着いている子と一緒にしてくださった方がいいと思います」と勇くんと一緒なのは迷惑だといわんばかりのお母さんもいます。
 「元気でいいわ」といっているお母さんも本音で言っているのではないことがわかります。勇くんのお母さんはいつも堅い表情です。他のお母さんたちへの防備の姿勢です。
 わたしは勇くんのお母さんに話しかけます。「お母さんは勇くのこと大変だと思っているでしょ、でも大変だな、困ったなと思う所が必ず勇くんの長所なんですよ。」、「勇くん見たら、あんなこと、してもいいんだなって、手も足も出なかった消極的なこどもも一緒になって始めるんです。
 勇くんは友だちに勇気をあげているんですよ。」と私は迷うことなくお母さんに言います。「
 大丈夫、やりたいことをやってるんですもの、あのエネルギーはすごい、やりたいことやっているのは見ていて気持ちいいですよ。」勇くんと同じように疑わしげなお母さんの表情も少しずつ和らいでいきました。

 ひと月が経ち、6月初めの週に勇くんが「きのう川にいった」というなり筆をとりました。
 昨日見てきた川を描こうとしています。
 鮮やかなウルトラマリンのストロークが画用紙を横切り晴れ晴れとしています。
 「かわだ、かわだ」と言っています。白が混ざり緑が混ざり、あっ!川の色だと思ったとき今度は混色がおもしろくなりました。
 バシャバシャと絵の具を飛び散らせながら川の音を聴き、入ってはいけなかった川に入り、さっきの喧嘩のうっぷんも晴らしてしまっています。
 見ている方も「やってる、やってる、気持ちいいぞ」と思ってうれしくなります。
 たった10分のあいだのことですがこの10分は今までの10分とは違って勇くんは自分と話をしています。
 こうしたことが出来るのには画材の力ということを考えない訳にはいきません。
 この画材の目を見張る透明なきれいさが、こんなに短期間に勇くんが自分のイメージを、描くという行為のなかで組み立て、切り開き、再構築していくことを可能にしたのです。
 こどもたちの声の色、目の色、体温が色彩となって隣り合う色を引き立てあい、相殺しあい、響きあいながら空気を動かし信号を送ってきます。
 SOSだったり、歓喜の声だったり信号はさまざまです。一人一人のこどもたちについてお話ししたいくらいですが別の機会にいたします。

〈色彩の体験〉

 次にこの画材が、「テーマ」をもちながらみんなで進める作業の幅を、楽しく大きく広げることについて報告いたします。
 毎週必ず幼児たちがしている遊びに「色水作り」があります。描き終わったと思うと「おてつだいする」といってビンに作った絵具を流し始めます。
 だれかしらが流しの前で絵具を流して色水を作っています。
 「あっ、へんないろ!、あっ、きれい!」「うみのいろ!」「せんせい、血みたい!」こんな声が絶え間なく聞こえていました。
 年中児クラスで色遊びをすることにした時のことです。ウルトラマリンとイエローウの絵の具を使いました。


 水をためた容器にそれぞれの絵の具を入れて青い水と黄色の水を作りました。
 12人のうちの6人は青い水をビンに入れ、あとの6人は黄色の水をビンに入れました。
 さあ合体です。「あっ、かわった!」「みどりになった!」ビンの中は鮮やか緑色です。
 こどもたちのこの一瞬の驚きが歓びとなり「あっ!」といっている間にだれかが次の色を加えます。
 今度はあたらしいビンにあたらしい色。
 色彩がこんなふうに群やかに変わっていくさまを見るのは多分初めてでしょう。
 きれいにできた色のビンをオルガンの上に並べました。


 つぎは絵の具と筆をつかって同じように色を作りました。
 ウルトラマリンとカーマインです。あのいつもの色遊びからは想像できない慎重で真剣な様子です。
 途中からほかの色も欲しくなって絵を描き始めていましたが、変化していく美しい色は子供たちの気持ちをじわっと包んでいるように集中した時間でした。
 不思議なことがある、驚くことがあるのはなんとしあわせなことでしょう。
 青色と黄色を混ぜ合わせれば緑になるということを知識として知ってしまってからでは決して得られないしあわせな時間を体験したことと思います。

〈作業からイメージへ イメージから思考へ〉

 5年前の秋頃から年長児は、ブロッククレヨンを使って数のカードをつくっています。
 算数は得意だろうと思っていた敦くんが、2年生の2学期から算数がわからなくなり、学校も嫌いになったと相談を受けました。
 算数のことなど何も聴かなかったことにして、数のカ-ドを作りました。遠山啓氏のタイルにヒント得ているのですが、あくまでもカードを作ることを目的にして、絵を描いたり工作したりするように作業を進めていきました。
 この数のカードの作り方、使い方については省きますが、そのようなときブロッククレヨンが活躍するのです。
 10㎝角の1つ、2つ、3つ、5つの単位に切ったシナベニヤにブロッククレヨンで色を塗ります。
 ちからがいります。丁寧に塗り込めれば蜜蝋のクレヨンはピカピカにひかります。手を動かし持続的な作業に没頭する中で数が実感され、それによって想像力が高められ想像力は思考力を育てていきます。
 敦くんはもう中学生ですが6年生の頃には「算数は得意中」と言っていました。これらはこの画材との出会いがもたらしてくれたことの一部です。

〈世界各国の画材43種類についての報告〉

 5月の初めの週に、世界各国の画材43種類を使ってみました。
 こどもたちがこんなにたくさんの種類の画材を一度に見ることは初めての経験です。
 私ですらわくわくしているのですから、こどもたちがわくわくするのは、当然のことです。
 レストランでショウウィンドウの好きな料理を選ぶときや、おもちゃを奪い合うときのように、眼をきらきら輝かせています。
 それぞれが使ってみたいものを選べるたくさんの種類と、好奇心を誘うパッケージの華やかなバラエティはこどもたちにとってとても幸せなことでした。
 一つのものを奪い合うようなことは全くなく、散々迷って決めかねても選ぶものが無くなってしまうようなことはありません。
 はじめて使った日には幼児から画材そのものについての感想はほとんどありませんでしたが、いつもよりずっと長い時間絵にむかっていたのは十分に満足していたからに違いありません。
 小学生は使いながらいろいろな感想を遠慮なく言い合っていました。


 2週目からは棚に画材を並べておきました。はじめての時のような興奮はもちろんありませんが、今でもおもいおもいの画材を取り出して使っています。
 こうして現在まで、いつも使っているストックマーの画材と併せて使ってみた結果を報告いたします。
 全体からいえば食べ物の味や口あたり、衣類の感触や色に好みがあるように、画材に対しても様々な強い好みを示しました。そしてとくに手に伝わる感触が好き嫌いを左右しているように思えました。


 この3カ月間に使った画材を表にしました。

 ■ 品名、発売元などはパッケージに書いてあるとおりを、そのまま記しました。
 ■ 値段は判っているもののみ記しました。購入時の値段です。
 ■ ◎○△ はこどもたちが示した関心です。
 ■ ★のある画材については別記いたします。 
 ■ ☆の画材はいつも使っている画材です。

油性クレヨン
No
品   名 色 数
発 売 元 国 名 値 段   ◎○△
備 考
1   おえかきクレヨン  12色     日本 ¥650  
2   らくがきクレヨン 12色   ORION
日本  ¥800    
3   ぺんてるくれよん  25色   ぺんてる
日本  ¥570      
4   ぺんてるくれよん   22色   ぺんてる  日本  ¥500      
5   ブロックくれよん  16色   ぺんてる  日本  ¥650  

6   ソフトピコ  16色   トンボ  日本  ¥700  
7   クレヨン  12色   無印良品
日本  ¥248      
8   PONG PONG PAS   24色     韓国    
 
9   COROUR CONES  6色   Gonis   Germany        
10   CARP WAX CRAYONS  24色   鯉魚牌 中国        
11   monalisa   8色     Germany   ¥700      
12   12 Wachs-Riesen  12色   LYRA
Germany   ¥2,400  

13   64Crayons  64色   Binney&Smith’s
U.S.A.  $4.09  
14   JUMBO CRAYONS   8色   Binney&Smith’s  U.S.A.  $1.99      
15   So Big CRAYONS  8色   Binney&Smith’s  U.S.A.  $2.69      
16   8 Kiddi   8色   STAEDTLER  Germany   ¥1,000      
17   16DickWachs stifte   16色   Pelikan
Germany   ¥3,200   Fingerfarb
18   wax crayons
 24色   STOKMAR  Germany   ¥4,000   スティック
19   wax crayons
 24色   STOKMAR  Germany  ¥4,000   ブロック
パス・パステル
No   品   名 色 数
発 売 元 国 名 値 段   ◎○△ 備 考
20   おえかきパス  12色     日本 ¥650      
21   まんてんぱすてら
 20色   フレーベル館
日本  ¥611      
22   NEO PASTEL
 12色   CARAN d’ACHE  Swiss ¥2,800      
23   Pflanzenfarb stifte  10色   ARTEMIS  Germany    
Fingerfarb
24   Dustless Chalk   12色     Israel ¥240   ◎  ☆ 
色鉛筆
No   品   名 色 数
発 売 元 国 名 値 段   ◎○△ 備 考
25   Wachs Pastell kreiden  12色   ARTEMIS  Germany
  ○  スティック
26   PRO NATURA   8色   LYRA Germany  ¥2,400  
Fingerfarb
27   ERASABLECOLORED PENCILS   12色   三菱鉛筆 日本        
28   Color PENCILS
 12色   三菱鉛筆 日本        
●水溶性クレヨン
No 品   名 色 数
発 売 元 国 名 値 段   ◎○△ 備 考
29   C・LANDくれよん  12色   三菱鉛筆 日本
     
30   Wachsmalstfte  10色   Pelikan Germany    

31   Faber-Castell
 8色   Castell Germany     ◎  ★ 
32   NEO COLOR   15色   CARAN d'ACHE Swiss     ○  Fingerfarb
33   10 PAINTIG CRAYONS
10色
REEVESE
England ¥980  

34   JUMBO-COLOR  12色   Faber-Castell Germany ¥3,600     ★ 
水彩絵の具
No 品   名 色 数
発 売 元 国 名 値 段   ◎○△ 備 考
35   まんてんカラー  12色   フレーベル館 日本
  ○  固形 
36   すいさいえのぐ   18色   フレーベル館 日本       チュウブ
37   Niji   18色   Yasutomo 韓国  $5.80     チュウブ 
38   SINKAN   13色   新韓画具工業社
  ¥200     チュウブ
39   Aquarell farben
12色
STOCKMAR
Germany
¥4,000  
250cc
ビン入り
40   Flora-Lora  4色   Pelikan  Germany ¥3,200     Fingerfarb
41   MALI plus
6色   EFA  Germany ¥3,300  
42   REEVE colour box  6色   REEVES  England ¥1,800     各種詰合せ
43   フィンガーペイント
12色     ISRAEL ¥2,300   ◎   

★ No.1 おえかきクレヨン、No.2らくがきクレヨン、だれも手を出さなかったクレヨンです。

★ No.3、No.4ぺんてるクレヨン、No.20おえかきパス、No.21まんてんパステラ、についても同じですが多分よく知っているということが、改めて使ってみようという気持ちを起こさせなかった理由だと思います。
  6年生が4人いるのですが(わたしの教室は人数の都合で4年生で終了してもらっていますが、毎年新学期になるとそれを無視して教室にきてしまう、絵が大好きで、教室が大好きなこどもたちがいます)これらのクレヨンやパスを見て「わあ、知ってる、これ使ってた、汚れちゃうの、黒くなるの」と反応していました。絵の教室でストックマーの画材を使っているこどもたちには、かつて幼稚園の保育の中で使っていたクレヨンがそんな記憶として残っているのだと知りました。

★ No.5ブロックくれよん、ぺんてるがストックマーのブロッククレヨンを摸して作ったものと思われるものです。
  6年生の絵美ちゃんはこれがとても気に入りました。絵は抜群にうまく、いつもストックマーのクレヨンや絵の具を縦横に使いこなしているこどもです。
  「絵美ちゃんどうしてこれが好きなの」と聞くと「かわいいでしょ、ちいさくて形がきれい」と言っていました。ブロックの縦横と厚さのバランスが好きなのだそうです。
  しばらくの間、使っても使わなくも自分の机の上においていましたが、実際に画材として使っていたわけではないようです。

★ No.6ソフトピコ、「わあ!これすき、かきいいよ!」と言う、こうたろうくんは1年生です。幼児教室に通って来て今年から小学生教室です。たいていのこどもたちが数枚の絵を描き、そのうえ絵の具を混ぜたり流したり十分に満足して暴れまわって帰っていく中で、目立って静かなのです。
  よく動きよく喋り、いつも楽しそうににこにこしているのですが、絵に向かう感情の表現が静かで、年長児になっても、元気な男の子たちのスコールのような絵の具遊びの中にはなかなか加わりませんでした。
  ですから卒園の音楽会の器楽演奏で鉄琴を受け持ってリズミカルに体ごと乗った演奏をしているこうたろうくんを見たとき、わたしは思いがけない飴力をみたおもいでした。
  こうたろうくんは小さな体で大きな眼をくりくりさせて「おえかきだいすき」と言います。あの鉄琴を演奏するときのようにこうたろうくんが体中でよろこべる様なことに、大好きな絵の中でも出会って欲しいとずっと思っていました。
  そのこうたろうくんが「このクレヨンすき!かきいい!」と叫んでいるのです。いつもとは違う伸びやかな線が走っています。「もっとかく!もっとかく!ぜんぶつなげて!せんせい、かきいい!」といいながらどんどん描いていきます。
  うれしいのはわたしも一緒です。お母さんがお迎えにみえても帰れません。デパートや街や線路が画用紙の上で弾んでいます。手に伝わる滑らかな感触が気に入ったのです。一生懸命説明するこうたろうくんを、お母さんもにこにこ見ています。後からやって来たこうたろうくんは次の週も、あのクレヨンと言って、ソフトピコで描きはじめました。
  日曜日に友達の家族と行った軽井沢のこと、大空を泳ぐという表現がぴったりのこいのぼり。ついにかれは海に向かって船をこぎはじめました。「えのぐもつかってみよう」と、バシャバシャはじめました。相当遅いお迎えだったのに、その日もなかなか帰れません。それでソフトピコと画用紙を家に持って帰ってもらいました。
  日曜日に、こうたろうくんとお母さんは、ケースについていた値段表に伊勢丹のマークがあったので伊勢丹に行ってみたそうですが手に入れることが出来ませんでした。あちこちの文房具屋さんにも聞いてみたそうですが、どこにもなかったそうです。
  このことを友人の絵画修復家の山領まりさんに話したところ、以前にトンボクレヨンが、製品の中にバリュウムが入っていたという理由で発売が停止になった、という記事を新開で読んだと話してくれました。
  もしその品物であればそのまま使っているわけにはいかないので、トンボ東京支社に問い合わせてみました。回答はソフトピコの製造を中止したとのことでした。

★ No. 12 12 Wachs-Riesen、重量感のあるしっかりした形と明るい色彩はなかなか魅力的です。こどもたちはごく自然に使っています。

★ No. 13 64Crayones、匂いがきつい、色がつきにくい、とこのクレヨンの評判は余りよくないのですが、ただ一人6年生の純奈ちゃんだけが大変気に入っています。今でもクレヨンを使うときには、このクレヨンを棚から取り出してきます。実際ワックスの匂いがきつく、画材というよりはmaid in U.S.A.の雑貨という感じです。以前、ソニープラザや輸入雑貨の店でよく見かけていました。純奈ちゃんはストックマーのブロッククレヨンが好きで、それを使って記憶に残るようなきれいな絵をたくさん措いています。色をゴシゴシ重ねるのではなく、柔らかく優しく重ねていきます。お母さんも、純奈ちゃんの絵があまりきれいなので、このクレヨンを使ってみたくなって自分でも購入して持っているくらいです。その純奈ちゃんが画用紙になかなか乗らない、かすれたような64Crayonesのマチエールが気に入っているのです。メデュームのワックスが多すぎて色彩がストレートに出て来ないのですが、純奈ちゃんがこの画材で作り出す水面などはガラス越しにみているような感じがあってなかなかきれいです。ひとりひとり随分ちがった好みがあるものだと思いました。

★ No.17 16Dicke Wachsstifte、みごとなクレヨンだと思いました。色調が明快で、一本の大きさ重さが心よく、パッケージも洗練されて力強く、さすがですが、これがぴったりくる気質のこどもがどれだけいるかです。このドライな色の固まりは、作品を作る大人のものではないでしょうか。

★ No.23 Pflanzenfarbstifte、植物性の染料で作られたパステルで、形のおもしろさや独特の色彩が高学年のこどもたちの感心をいっせいに集めました。見かけとはちがう少しゴソゴソとした感触がいやなこともいいましたが、それでも使ってみたくなるようです。いままでに経験したことのない触感あるようです。

★ No.25 Wachs Pastell krelden 太い木の軸と、パッケージに描かれたやわらかい花の絵のタッチとその色調が興味を引きました。★No.23のパステルと同じです。

★ No.26 PRO NATURA No.25と同じです。いずれもこれで充分に充たされるというものではありませんが、カードを作ったり、絵本を作ったりして楽しんでいます。

★ No.30 Wachsmalestifte ★No.31 FaberCastell とも一本一本が順々に引き出せるようなプラスティクのホルダーに入っています。これがおもちゃのようで人気でした。水にもよく溶けて、包装もきれいですが、このプラスティクのホルダーを触ったったときの感触があまり感心できません。

★ No.32 NEO COLOR この水性クレヨンはわたしも以前から持っていますが、さっと水に溶けて被覆力が強くガッシュのようになり、色も鮮やかできれいです。

★ No.40 Flora-lora、★No.41 MALI plus、★No.42 REEVES color itはいずれもフィンガーペイントですが、劣化によるものなのか、そういうものなのか判りませんがフィンガーペイントとして使用出来ませんでした。
 特にNo.42はゴム状になっていて使用困難でした。色味が薄いのでストックマーの絵の具を加えて練り直し、筆を使って描いたり、デカルコマニーをしたりしました。ボディがあるため抵抗感があり、いつもと違う感触が想像力を刺激したと思います。もう一枚もう一枚といつまでも、絵あそびや水遊ひをしているよう楽しんでいました。


 以上、気付いたことを書き出しましたが、これら個々の銘柄ひとつひとつに、こうした多くの画材に触れることが出来たことは貴重な体験でした。
 時が経ってこの体験が記憶の底に沈んでしまっても、作ったり、描いたり、考えたりするときに心の振幅に必ず作用するものだと思います。
 この画材を送っていただいて、こどもたちと一緒に使うとき、頻繁に浮かび上がって来る記憶がありました。


  戦争中のことです。警報が鳴って避難するときに背負っていた小さなゴム引きのリュックの中には、まだ使っていない「三ツ星絵の具」と、トランプ模様の絵のついた「王様クレヨン」が入っていました。
 絵が特別に上手でもなく、描くことを特別好きと思っていたわけでもない私ですが、親戚のおばさんからいただいたクレヨンと絵の具はドキドキするほど大事なものでした。スケッチブックも筆もありませんでしたが、大切なものを入れておくのよと言われて、わたしは北原白秋の詩集「月と胡桃」と絵の具とクレヨンで重くなったリュックを背負っていたことを思い出します。


 今この華やかな色彩に溢れる画材に触れる時、戦争中のあの時の思い出が寂しいような、可哀想なような気持ちとともに思い出されます。変化するものや、何かを作り出すものが持つ魅力はわたしにとって輝くものだったのです。今自分がしていることを思うと、あのリュックの中の絵の具にさかのぼっていくのです。
私の教室のこどもたちにとって、これらの画材が私のリュックの中の絵の具やクレヨンのようなものになるならば、それはなんと豊かで、幸せなことでしょうか。そう思うとき、これらの画材との出会いを作ってくださり、支援してくださった「日本児童教育振興財団」に心から感謝致します。

 ありがとうございました。

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