『西神田の集まり』−1982年〜1985年の記録

   松山俊太郎さんの連続講義を始まりとして

 

 80年代初頭、東京の西神田にあった古いしもた屋の二階で毎月一回土曜日の夜に 開く「集まり」があった。始まりは、印度哲学の松山俊太郎さんを招いて話を聞く集まりだったが、ほかにも様々な方にお願いして話をしていただいた。

 

 秋山清さん(詩人)、浅川邦 夫さん(画廊春秋主人)、今泉省彦さん(画 家・美学校校長)、井出文子さん(女性史研究家)、 風倉匠さん(美術家)、亀和田武さん(作 家)、川仁宏さん(編集者・パフォーマー)、 川上ナオミさん(オーガナイザー)、國吉和子さん(舞 踊評論)、松澤宥さん(美術家)、 など、そのほかゲストには、古澤栲さん(パフォーマー)、 木村威夫さん(映画美術監督)もいらした。(*肩書きは 当時のもので、すでに亡くなった方もおられます)

 

 「集まり」の主催者はその家の主人、川仁俊恵さん(画家)、 毎回おいしいサンドイッチとつまみ、飲み物をたっぷり用意してくれた。企画と連絡、裏方は白澤唯司/吉利が 担当した。「集まり」のプランは80年頃から俊恵さんと相談を始めていたが、準備がなかなか整わず、ようや く決まったのは82年も開けた226日 の土曜日、第1回目は松山さんの講義『愛について』から始まった。

 プライベートな小さな場所での集まりでもあり、あまり堅苦しい雰囲気にしたくなかったのもあり、会の名称は付けぬままスタートし た。当初の聴講者には俊恵さんと相談して案内を出した。78名 ほどの集まりだったが、回を重ねるごとに口コミで徐々に増えてきて常連は123名 を越えていた。講義の内容も豊かで刺戟的であったことは勿論だが、俊恵さんの作ってくれる美味しい料理も魅力だったのは間違いない(会費は集めていたが、運営 費はいつも赤字モチダシ!)。時には20名を越えることもあって木造二階屋の床が抜けないか心配になった。 この家、元はといえば現代思潮社の編集部があった家で、その当時編集長だった川仁()さ んが、編集部が小日向に越した後を借り受けて息子の央ちゃんと親子三人で暮らしていた。事情があって川仁さんはその時には既にこの家には住んでいなかったが、 名前を挙げたら切りがない程たくさんの人たちが集まっていた場所なのだ。

 「集まり」の始まった頃はサロン的だとかの風評も聞こえたが、まったく気にせず、雰囲気も変えなかった。講義が終わると、たっぷり のサンドイッチと美味しい何品かの料理が出て来て、焼酎の一升瓶をどんと真ん中に置いて各自勝手に飲んだり食べたりした。みんな一緒に食べたり飲んだりするこ とが、その場をすっかり和ませて、講師と聴衆という垣根を相当低くしたはずだ。閉会の時間を決めないで、それぞれの人の終電の時間までで良い、と云う俊恵さん の海の様な許容力のおかげで、質疑応答から話がさらに盛り上がったし、普段聞けない話や気を抜いた話にもなって夜中に大笑いすることもたびたびだった。そのう ちに、話を聞いていて終電を逃した人が出たりしてとうとう始発電車まで居残りと云う事態が、だんだんと常態化していった。楽しい話に酒も進むのは当たり前で、 俊恵さんのストック酒を毎回頂戴していた。事情を知っているメンバーは飲み物(主として酒、だが)や食べ物を差し入れてくれたし、運営・裏方も田村治芳(編集 者・古書店主)くんが手伝ってくれた。

 講義の記録はテープに録音したが、貸し出したまま、残念ながら行方不明のテープもある。講義を聴きっぱなしではあまりに惜しいし、 その一部でも文章化して残したいと云う思いも少しあった。集まりも2年ほど経ったころ、松山さんの初期の数回分の講義テープを文字起こしすることにした。田村 と集まりメンバーの室野井(洋子/舞踏家)さんにも相談 して、三人で何とか原稿らしき物に仕上げた。松山さんに原稿を見せて小冊子に仕立てたいと話をしたが、駄目だと一蹴されてしまった。いい加減な小冊子など出版 したくなかったのだろう、話し言葉の文体も気に入らなかったようで、コピーもせずに渡した原稿は戻ってこなかった。その後数年経ってきちんとした出版社から松 山さんの本が出た。話し言葉の文体だった。

 名前を挙げた方々の講義を身近に聞けたことは、今にして思えば勿体ないような、貴重な楽しい時間だった。その一回一回の思い出を書 き出したらそれこそ切りがない。「こんな楽しい集まりは永久に続いてほしいね」と松山さんは言っていた。丸々4年 もよく続いたなあ、と思う。たった4年か、とも思う。全て、川仁俊恵さんのおかげである。

                                         20105月  白澤吉利

 以下に、その「集まり」の全記録を書き出しました。

 

 

期日

講師

主題

備考

Tape/No.

第1回

’82. 2.26

松山俊太郎1

「愛について」知ること、見ること

 

1

第2回

3.26

松山俊太郎2

「愛について」「愛」の言語学的考証

 

不明

第3回

4.23

松山俊太郎3

「愛について」テキストを読んで、

*テキスト/ホーフマンスタール『騎士バッソンピエールの冒険』

1

第4回

5.21

 

メンバーミーティング

今後の希望など、

 

第5回

6.25

松山俊太郎4

印度教に於ける宇宙・世界阿頼耶識に触れて

 

1

第6回

7.28

ミス・ジュンコ

米国西海岸に在住の日本人事情など

 

 

7

9.28

松山俊太郎5

「都の恋、鄙の恋」印度古典詩から

*テキスト/古典詩抜粋コピー

2

8

10.22

松山俊太郎6

「美について」夢の話から

 

2

9

11.7

 

川仁俊恵・展覧会パーティー

松澤・川仁対談延期のため

 

10

11.26

松山俊太郎7

自由と権利と義務について

 

2

11

11.29

松澤宥対談川 仁宏

美術と言葉の間に

対談の前に松澤宥の声による美術作品の発表あり

2

12

12.17

松山俊太郎8

「豊饒の海」から三島由紀夫について

*テキスト/

 

 

12.30

BONENKAI’82

 

参加者10

 

13

’83. 1.22

松山俊太郎9

「夢の浮き橋」谷崎潤一郎

*テキスト/夢の浮き橋

 

14

2.26

松山俊太郎10

タントラ創造模型と時の重視

スライド映像を見ながら

 

15

3.26

松山俊太郎11

タントラー2

スライド映像を見ながら

 

16

4.30

浅川邦夫

浅川邦夫を包囲(むかえ)

鉄五郎の話など、

 

17

5.28

松山俊太郎12

印度の神話と象徴

*テキスト/別製資料

 

18

6.25

秋山清

「小組のへそ」開かれた男と女の関係

テキスト/別製資料集・大杉栄と堀保子の文章など

 

19

7.30

松山俊太郎13

印度の神話と象徴第2回

 

 

20

8.27

秋山清

小組のへそ開かれた男と女の関係

テキスト/別製資料集

 

21

10.1

松山俊太郎14

稲垣足穂カフェの開く途端に月が昇った

 

 

22

10.29

浅川邦夫

浅川邦夫を包囲(むかえ)抽 き出しと把手・対談/今泉省彦

 

 

23

12.3

松山俊太郎15

「潜航艇『鷹の城』」小栗虫太郎推理作家になりそこねた人

*テキスト/現代教養文庫・社会思想社刊

 

24

12.18

 

十二のプール

メンバーミーティング

 

25

’84. 1.28

松山俊太郎16

21世紀への展望人類に未来はあるか

 

 

26

2.25

松山俊太郎17

19402000回 顧と展望

 

27

3.24

亀和田武

1964年に於けるTOKYOの 変容—JFK、力道山、そして和製ポップスの死

 

28

4.28

松山俊太郎18

自由と因縁

 

29

5.29

秋山清松山俊太郎

秋山さんと松山さんの話を聴く

 

30

 

休止

 

 

 

31

7.28

松山俊太郎19

水について

 

32

9.22

秋山清井出文子

昭和初期の女性運動家たちゲスト・井出文子

*テキスト/

 

33

10.27

松山俊太郎20

「可哀相な姉」渡辺温ヲ読ム

*テキスト/渡辺温全集’70薔薇十字社版

34

11.24

井出文子

女性運動の先駆者達「婦人戦線」発刊の前後から

*テキスト

35

12.22

松山俊太郎21

「愛」平凡社百科事典の[あ い:AI]の項目より

BONENKAI

 

36

’85

1.26

今泉省彦

60年代の美術をめぐる事件と現在

 

37

2.23

松山俊太郎22

リラの香りのする手紙妹尾詔夫

*テキスト

不明

38

3.23

今泉省彦

60年代の美術をめぐる事件と現在第 2回

 

2

39

5.18

今泉省彦

批評

 

40

6.15

松山俊太郎23

柊雨堂夜話木々高太郎

*テキスト/

2

41

7.5

川上ナオミ

TALK SESSION

N.Y.のオルタナ音楽事情など

3

42

8.29

風倉匠

パフォーマンスの源泉

ゲスト・古澤栲

4

43

9.28

松山俊太郎24

宇宙と神々の象徴スライドでみるインドの美術

 

 

44

10.26

國吉和子

「踊る愛人」シリーズその一・壮吉と八重次

荷風と藤間静枝(のちに藤蔭静枝)の ことなど

3

45

12.28

松山俊太郎25

スライドでみるインドの美術

BONENKAI